• MY HOBBIES / Kenichi Hamana

ロータリー50周年記念切手の第4回は「ザール」です。
私は中学校の授業で教科書に載っていたアルフォンス・ドーテの短編「最後の授業」が印象に残っています。今はフランス領になっているアルザス地方が舞台の小説ですが、そこに隣接し、今はドイツ領ザールラント州になっているのがザールです。豊富な地下資源を有し、炭鉱や製鉄業で栄えた地域であり、第2次大戦後はフランスの保護領でした。1954年のパリ協定に基づく1955年10月23日の住民投票で、フランスは独立させようとしましたが、約64%の独立反対により当時の西ドイツに帰属しました。現在「ザール」は存在せず、切手収集の面からはデッドカントリーと呼ばれています(ザール表示の切手は1920~1959年とされています)。

ロータリー50周年の記念切手が発行された1955年2月28日はザールがフランスの保護領「ザール」として存在していました。ドイツ領に復帰が決まる8か月前のことです。また、当時の首都(現在は州都)ザールブリュッケンには1931年に設立されたロータリークラブ(RC)が活動を続けていました。

記念切手は1種のみ、製鉄など重工業の工場とロータリーのエンブレムを描いた①が100万枚発行されました。デザイナーはザールブリュッケン在住のフリッツ L. シュミット氏で、印刷はパリ(フランス)のH.V.社が担当しました。
この切手は5×5の25面シートがガッター部分をはさみ横に2組並べられた50面シートで発行されました。①はその右上部分で、耳紙(周囲の余白部分)には、販売時の計算に便利なよう例えば上2列の20枚なら右端にあるように300フランの数字が入っています。②はガッター部分の上2列です。③はあまり知られていないのですが、フォトエッセイの最終版と考えられます。
フランスで印刷されましたので、フランス切手と同様、④プルーフや⑤デラックスシートが作られ、⑤は少数が郵便局窓口で限定発売されました。発行初日に2種類のマキシマムカードと多数のFDCが作られ、マキシマムカードは数の少ない⑥を掲載します。
FDCは10種余りのカシェが確認されていますが、⑦首都ザールブリュッケンの消印と、⑧メトゥラッハの例をご紹介します。⑨は発行11日後にセント・イングベルトでイタリアのジェノバに宛てて差し出された書留の実逓便の封筒です。他国に書留で出すと75フラン必要だったのでしょう。

この切手には不発行デザインと称されるものが存在します。横幅が実際に発行された切手よりも広く、プルーフ⑩⑪(⑪は第一段階のプルーフ)やカラートライアル⑫が残されています。プルーフも他に何色かあり、カラートライアルは20色ほどが確認されています。切手発行時、郵政において検討の結果、幅の狭い方が実際に発行されたと思われていますが、ザール郵政は60年以上前に消滅して記録も残っておらず、確たる証拠がありません。この不発行デザインは1955年当時から存在していますので、後年になって作られた偽物でないことは間違いないようです。


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