もう25年も前だがニュージーランドの南島を訪ねた。昨年7月27日のコラムで「キングストンフライヤー」について記したその旅でのことである。最初に訪れたのはクライストチャーチ。市内を流れるエイヴォン川ではゆったりと小舟で至福のひと時を過ごすことができ、賑わいもあるきれいで住みやすそうな街だった。そこにトラムが走っていた。今も同じように観光の目玉になっているらしいので、記憶をたどってみることにした。
かつてどなたかにお話ししたように、私は「トラムは鉄道ではない」と思っていた。それは今も同じなのだが、この鉄道のコラムにもポルトガルのトラムが登場したことがあるように、その境界は極めて曖昧であり、これからも時々トラムの話が出てくるかもしれないことを初めにお断りしておきたい。
さて、クライストチャーチは人口388,400人(2018年)。南島の中心的な都市であり、カンタベリービールを飲み鹿肉のステーキを食した思い出もある。その街を走るトラムの市民の足としての役目は1954年に終わり、1995年に観光の目玉として復活し現存している。市内の大通りを一周する路線は、途中商店街のしゃれた中庭のような区間も通る。単線、つまり一方通行。一周約3.9kmに17の停留所があり25分ほどで周回し、15~20分間隔で走っている。私が乗った頃は一回券もあったが、今は一日券のみで25NZドル(約1,900円)しているようだ。乗ったり降りたり、疲れたらまた乗って休憩所代わりに使うのもいいらしい。詳しくは観光ガイド本をご参照のほど。
①の前面の行き先表示に「CITY LOOP」とあるように、行き先を間違える心配はなく、気に入った場所があったら次の停留所で降りればよいのである。写真を見てお気付きのことと思うが、運転台の前にはベビーカーが吊りさげられている。大きな荷物は車内に持ち込まなくてよいようになっている。左を走るコカ・コーラのトラックの後方にはかの有名な大聖堂のバラ窓も見える。大聖堂は2010年9月のカンタベリー地震で大きな被害を受け、一時は解体が決まったが市民の反対の声に押され、ようやく2017年に10年がかりの修復計画が決まった。今は隣接地に「紙の教会」が建てられている。余談だが大聖堂の修復には切手(民営郵便会社)による寄付金集めが地元のロータリークラブによって行われ、私も少なからず協力したことがある。
さて178号トラムの後部には付随客車が見える。②を見ていただくとよくわかるように、旧型車両が電装を解除し付随車として使われ、2両編成で走っていたのだ。この写真では前面にベビーカーが吊るされていないので、乳児を連れた乗客は降りたのであろう。③は11号車でかなり古い車両のようだ。「SPECIAL」の表示があるように団体利用かランチツアーでもあったのかもしれない。ディナートラムもあるようだ。④は車内の様子だが、乗った車両の番号を控えていなかったので178号かどうかはわからない。よく見ると前方に「OUT」とあり、「後乗り・前降り」の車内一方通行だった。
クライストチャーチで2泊の後は、南島を横断する観光列車トランツアルパインで途中のアーサーズ峠(この区間だけ電化され補助機関車が付くかつての碓氷峠のようなところ)を経てグレイマウスまでの鉄道旅を堪能し、フランツヨゼフ氷河村に2泊して氷河を体験、ミルフォードサウンドでは船中泊。キングストンフライヤーに乗るなど思い出多い旅だった。トランツアルパインの記憶もいずれご紹介したい。